今後の医療を変えるものとして、大きな注目を集めている「マイクロバイオーム」。近年の研究から、健康や多くの疾患に密接に関係し、さらに心や精神状態への影響も明らかになってきているそうです。さあ、「マイクロバイオーム」を意識した健康生活を実践してみませんか？
健全なマイクロバイオームがもたらす恩恵
先に述べたように、私たちの身体はそれ自体が1つの完全な生態系を構成しており、そこに棲む細菌が、私たちの健康において大きな役割を果たしています。
この自然の生態系をより分かりやすく理解するために、自然そのものに目を向けてみましょう。
中南米やアジアの一部地域では、多くのハキリアリが生息しており、小さく切った葉の破片をせっせと巣に持ち運びます。
しかし巣の中を覗いてみると、彼らは単に食事を巣に持ち帰っているのではないということがわかります。これらの葉を食べているのではなく、葉を栄養源として増殖する菌類を食べているのです。さらに興味深いことに、彼らは作物(菌類)を栽培し、それらを食べ終えた後は、用済みの葉として巣から運び出します。そして、それらの葉は森の堆肥となっていきます。こうして養分の循環が続くのです。森はアリに食料を提供し、アリは森に炭素と栄養の循環をもたらします。まさに相利共生の関係です。そしてこのような循環が、規模は違うけれども、私たちの身体の中で日々起こっているのです。
マイクロバイオームの働きもだいたい同じです。消化器系には何兆個もの生物が潜んでいます。これらの生物は、食べ物からできる限り多くの栄養を吸収するように私たちの身体に働きかけます。そして身体が吸収しきれなかった分を受け取り、自分たちが食します。その多くは繊維質(多少の脂肪やタンパク質も含む)です。生物はこれらの残留物の代謝を助けます。その繰り返しによる効果は絶大です。
自分の身体を、庭であると考えてください。そこでは健康な細菌が土壌の役割を果たします。土壌が健全であればあるほど、より多くの果物や野菜を生産することができます。つまり、あらゆる面における健康効果が得られるということです。
そのためにはまず、健康に良い有機物を増やしていく必要があります。菌類とさまざまな植物の根には密接な関係があります。菌類が根に付着することにより根の表面積が増え、植物はより多くの水と養分を土壌から取り込めるようになります。
マイクロバイオームが健康にもたらすメリットは、数え切れないほど多くありますが、私たちはマイクロバイオームを、「腸の健康」だけに紐づけしがちなため、普段マイクロバイオームを意識することはほとんどありません。しかし腸とその内壁の健康、消化プロセスなどがマイクロバイオームと直接かつ密接に関係していることが報告されています。
この他にも、次のような多くのメリットがあります。
健全なマイクロバイオームは、私たちの心血管の健康に良い影響を与えます。健康な細菌は脂質の代謝を促します。少量のビタミンKやビタミンB群などの必須ビタミンを作ることもできます。また、食物繊維などの特定の栄養素の代謝を助けます。免疫細胞の70～80％は消化管内に存在するため、マイクロバイオームは免疫系に直接作用します。
健全なマイクロバイオームは、口腔内から脳に至るまであらゆる場所に、直接的に良い影響を与えるのです。
身体に良い食事、健康的な生活
私たちの身体が庭で、細菌が土だとしたら、その土をできるだけ健全で質の良い土にするにはどうすればよいでしょうか。答えは私たちの食べるものにあります。
身体に良い食事は、全身の健康を増進させます。直接体内に取り込まれた栄養がマイクロバイオームを介し、日々の排泄に影響を与えるからです。
食品は外気に触れる時間が長ければ長いほど栄養価が低下します。保存料が健康に良くないとされているのはそのためです。保存料によって長期保存されて栄養価が低下した食品は、マイクロバイオームに悪影響を与えます。
地元産の新鮮で自然な食材は、体内のマイクロバイオームに必要な栄養を与え、身体を健康な土壌で満たします。それにより脳や免疫系、心臓に良い影響がもたらされ、健康という果実を生み出すことができるのです。
